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カリウム40とセシウム137の違い [仕事とその周辺]

(関連記事:トリチウムのマルチヒット効果) 1401577.gif末尾の核物理の部分を少し補筆しました.(最終改訂:2017年6月)
12日のバンダジェフスキー福岡講演はとても勉強になりました.500人のホールがほぼ満員になるという,この種のやや専門的な会合としてはたいへんな盛況でした.話題はチェルノブイリ事故後のCs-137(セシウム137)汚染による健康影響が中心でした.応援のクリック歓迎

このCs-137による内部被ばく数10Bq/kgでも障害が出るとのことです.同じ化学的性質を持つ同様のベータ放射性核種であるK-40は通常体内に70Bq/kg程度存在していて,しかもCsの体内の挙動はKと似ています.しかしK-40がそのような障害を起こすとは見られていません.「だから少々の内部被ばくでも大したことはない」という,放射線影響楽観派がよく引き合いに出すのがこのK-40です.

しかしCs-137とK-40で影響が違うとすれば,なぜなのでしょうか?自然の核種にさらに人工のベータ放射体が付け加わったという,単に量的な効果なのでしょうか?

これら二つの核種の崩壊様式を詳しく見て,大きな違いに気付きました.K-40では崩壊時に放出される荷電粒子(ベータ線など電気を帯びた粒子)はベータ線またはオージェ電子の1本だけなのに対し,Cs-137ではベータ線に続いて内部転換電子と呼ばれる高速の電子も飛び出す場合が9.6%もあります.さらに続けてオージェ電子も7%の確率で出ます.つまり荷電粒子が同時に2〜3本放出される確率がかなりあるのです.
K40vsCs137.gif
ECRR-2010勧告日本語版150ページに,一つの細胞に対する複数ヒットが及ぼす非線形な(より大きな)効果についての記述があります.上記のように,K-40では崩壊核から事実上1本のトラック(注)しか発しませんが,Cs-137では9.6%で少なくとも2本トラック,さらに7.4%は3本トラックを発するため,この核種を抱え込んだ細胞には(または隣の細胞も)複数のトラックが走ることになります.つまりK-40が細胞に単一ヒットしかもたらさないのに対し,Cs-137では2ないし3ヒットを起こす確率が1割程度あるのです.これが両者の効果の差の原因ではないでしょうか.
(さらに,バンダジェフスキー氏が当日述べたように,崩壊後のBa原子が悪さをするのかも知れません.)

以上のような考察は,おそらく「マイクロドシメトリー」という分野ですでになされているのかも知れませんが,私自身はこの分野には明るくないので,ネット検索もなかなか要領を得ません.

(注)高速で走る荷電粒子(ベータ線も他の電子線も同じ高速の電子)はそのトラック(走行する道筋)に連続的にイオンを作り,これが細胞へのダメージの原因になります.または直接細胞内の高分子を破壊します.

1401577.gif福島原発事故で放出される核種,とくに海洋汚染で注意すべき核種は,セシウムとともにストロンチウム90です.これは骨に集まり,体内半減期も50年と長い.つまりいったん取り込むとほとんど排出されないので特に危険です.しかもγ線を出さないため測定が面倒で,市民測定室では手が出ません.魚の厳重な監視が必要です.
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以下,私の専門である核物理の部分の詳細です.

40Kと137Cs,それぞれの崩壊に伴う放射線の本数

40K
40Arへの崩壊 (10.86%):ベータ崩壊は極めて弱く(0.001%),主に電子捕獲,続いてオージェ電子放出(2.66keV).続いてガンマ(1460.8keV).このガンマはエネルギーが高いため内部転換はほとんどない.
40Caへの崩壊 (89.14%):ベータ線のみ.ガンマなし.
つまりどちらの核への崩壊も,放出荷電粒子はオージェ電子またはベータ線のどちらか1本だけ.

137Cs
137Baへの崩壊のみ:94.7%が661.7keVの第二励起状態へ(分岐1),1401577.gif5.3%が基底状態へ(分岐2).
分岐1の第二励起状態からは,85.1%の基底状態へのガンマ崩壊(分岐1-1)または9.6%の内部転換電子へ(分岐1-2)(%は何れも全崩壊に対する割合(abundance).以下同様).
 分岐1-1 ガンマ崩壊への分岐ではそれで終了.
 分岐1-2 内部転換では,さらに続けて7.4%でオージェ電子放出(3.7keV).
分岐2の基底状態への崩壊はそれで終了.

このように,分岐1-2では,ベータとそれに続く2個の電子放出と,合計3本のトラックが生じる.

核データは次を参照:
http://www.nndc.bnl.gov/chart/decaysearchdirect.jsp?nuc=137CS&unc=nds
http://www.nndc.bnl.gov/chart/decaysearchdirect.jsp?nuc=40K&unc=nds
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