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退職金裁判,控訴理由書 [仕事とその周辺]

退職金裁判の件,明日(6月28日)午前11時に,福岡高裁で控訴審が開かれます.
控訴理由書も一月前に提出していたのですが,ブログへの転載が遅くなってしまいました.以下にpdfを,またこの記事でもhtmlで公開します.
http://ad9.org/pegasus/UniversityIssues/taishokukinsaiban/appeal/kousoriyuusho-taishokukin.pdf
長いので,要約を作る予定です.以下のhtmlは整形が不十分なので,あとで修正します.
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なお,法廷終了後近くで報告集会が開かれる予定です.
[他の法廷文書など]

目 次

控訴理由書
第1 就業規則不利益変更の「高度の必要性」に関する原判決の誤り
1 原判決の理解する「高度の必要性」の内容
2 原判決は財政上の理由がなくても「高度の必要性」が認められると解するものである
3 判例法理における「高度の必要性」の内容
(1)「高度の必要性」の法理
(2)「高度の必要性」の判断においては財政状況が重視されるべきであること
(3)総合的判断の必要性
(4)原判決はその実質,総合的判断の視点を欠いていること
第2 通則法63条3項の解釈における原判決の誤り
1 通則法63条3項に関する原判決の論旨
2 独立行政法人通則法63条3項の趣旨ないしあるべき解釈
(1)問題の所在
(2)独立行政法人通則法63条3項の規定内容
(3)通則法63条3項の立法趣旨
(4)通則法63条3項の解釈において重視されるべき国立大学法人の自主性・自律性
(5)原判決は通則法の解釈を誤るものである
3 原判決の根本的な問題点 — 原判決は通則法63条3項の趣旨を誤り国立大学法人の自主性・自律性を侵害する帰結をもたらすものであること
第3 被控訴人は余剰利益による対応が可能であったこ
1 佐賀大学の財政状況
2 原判決の判断の誤り
(1)原判決の判断内容
(2)原判決は大学の自主的決定をできなくするものである
(3)原判決は被控訴人の財政状況の判断を誤っている
3 佐賀大学は流動資産を十分に有しており財政状況が良好であったこと
(1)控訴人の主張
(2)原判決の流動資産に対する理解の誤り
(3)小括
第4 不利益変更の合理性に関するその他の諸事情に関する原判決の判断の誤り
1 「本件退職金規定における不利益の程度」について判断の誤り
(1)原判決の判断内容
(2)「不利益の程度」の概念に関する理解の誤り
(3)本件における不利益の大きさに対する判断を誤っている
2 「改正後退職規定の内容の相当性」についての事実認定の誤り
(1)原判決の内容
(2)官民格差解消との点
(3)上記②の過半数代表者の同意の有無について
(4)代償措置も不利益回避の時間的余裕もなかったこと
(5)小括
3 「労働組合との交渉状況について」事実認定及び評価の誤り
(1)原判決の内容
(2)被控訴人は財政上の必要性について組合に殆ど説明していないこと
(3)被控訴人には時間的制約はなかった
4 就業規則の不利益変更の際,個別労働者への周知を履行したか否かについて
(1)原判決の内容
(2)周知と言えるための要件
第5 結論

第1 就業規則不利益変更の「高度の必要性」に関する原判決の誤り
1 原判決の理解する「高度の必要性」の内容
 原判決は,本件退職金規程の改正を就業規則の不利益変更と位置づけ,これに労働契約法9条及び同10条を適用する(原判決35頁)。そして,本件で問題となっている退職金という労働者にとって重要な権利,労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更については,一般論としては,当該条項がそのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの「高度の必要性」に基づいた合理的な内容のものである場合においてその効力を生じる,との理解に立っている(原判決同頁)。

ところが,原判決は,前記判断基準の本件への具体的な当てはめにおいては,「国立大学法人の職員に係る退職手当減額に関する労働条件変更の必要性としては,財政上の理由のみに限定されると解することはでき」ないとし,控訴人が国からの要請を踏まえ,「本件退職手当規程を社会情勢適合の原則に合致し,国民の理解と納得を得られるものとするために,官民格差の是正という観点から退職手当の減額に向けた改正を行うという高度の必要性があった」(原判決38頁)と判断した。

2 原判決は財政上の理由がなくても「高度の必要性」が認められると解するものである
 原判決は,不利益変更の必要性について,「財政上の理由のみに限定されると解することはでき」ないとしているが,本書面の別項において検討するとおり,本件においては,控訴人は,財政上の理由から本件退職金規程を不利益変更する必要性は全く存しなかったことを考え合わせると,結局,原判決は,財政上の理由がなくとも,「高度の必要性」が認められる場合がある,との見解に立つものと解される。そして,そこには,「高度の必要性」の判断における「財政上の理由」の有無という要件についての著しい軽視が見て取れる。
 しかし,この原判決の見地は,最高裁の示した判例法理に反し,労働契約法10条の解釈として著しく不当なものである。

3 判例法理における「高度の必要性」の内容
(1)「高度の必要性」の法理
 本件は,いわゆる「就業規則の不利益変更」の問題であり,労働契約法が実定法化された今日においては,その法的判断は,労働契約法9条及び10条の解釈によりなされる。

 ただし,これら労働契約法の規定は,この問題に関する判例法理を過不足なく表現したというのが立法者意思であるから(「労働契約法の施行について」平成24年8月10日基発0810第2号参照),その解釈のためには,同法制定段階における判例法理を踏まえなければならない。

 この点,第四銀行事件において,最高裁は,「当該規則条項が合理的なものであるとは,当該就業規則の作成又は変更が,その必要性及び内容の両面からみて,それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても,なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい,特に,賃金,退職金などの労働者にとって重要な権利,労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については,当該条項が,そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容である場合において,その効力を生ずるというべきである。」と判示しており(最高裁第二小法廷平成9年2月28日判決。下線は控訴人代理人による。),そのような「高度の必要性」が認められる場合に限り,労働条件を不利益に変更する効力がある,とする枠組みを示した。この法理は,みちのく銀行事件における最高裁判決(第一小法廷平成12年9月7日判決)においても示されているところであり,これは今日確定した判例法理となっている。

(2)「高度の必要性」の判断においては財政状況が重視されるべきであること
 そもそも当該企業が賃金や退職金を減額(不利益変更)しなければならないような財政的事情ではないにもかかわらず,賃金や退職金など,労働条件の経済的要素を変更することが「高度の必要性」に基づくものであるなどということは通常観念しえない。したがって,賃金や退職金等を不利益に変更する必要性について検討する上では,当該企業の財政的事情が中心的な要素とされるべきは,当然である。

 この点,最高裁も,「高度の必要性」を検討するにあたっては,財政的事情を重視しているものと解される。みちのく銀行最高裁判例の調査官解説(民事編平成12年度765頁)においても,「重要な労働条件につき全体的にみて実質的な不利益性がある場合は『高度の必要性』を要し(大曲事件,第四銀行事件),その実質的不利益性が高く,当該労働者に専ら大きな不利益のみを課すものと評価されるような場合には,よほど高度の必要性(雇用危機,経営破たん等が考えられよう。)が認められない限り,合理性が否定されることになろう(朝日火災海上事件及び本件がそうである。)」と指摘しているところである(下線は控訴人代理人による。)。

(3)総合的判断の必要性
 そもそも,労働契約法10条は,「就業規則の変更が,労働者の受ける不利益の程度,労働条件の変更の必要性,変更後の就業規則の内容の相当性,労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき」と規定し,そこに示された諸事情を総合的に判断して合理的な場合にのみ就業規則の変更を認める旨規定しているのであって,就業規則の変更について「高度の必要性」があれば直ちに就業規則の変更の合理性を認めるなどという判断枠組はとっていないことは,明らかである。

 この点,第四銀行最高裁判決(平成9年2月28日)は,労働者に不利益な労働条件を一方的に課す就業規則の作成又は変更も,当該規則条項が合理的なものであれば,これに同意しないことを理由としてその適用を拒否することはできないとの秋北バス事件最高裁判決を引用しつつ,それに続けて「右にいう当該規則条項が合理的なものであるとは,当該就業規則の作成又は変更が,その必要性及び内容の両面からみて,それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても,なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい,(中略)・・・具体的には,就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度,使用者側の変更の必要性の内容・程度,変更後の就業規則の内容自体の相当性,代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況,労働組合等との交渉の経緯,他の労働組合又は他の従業員の対応,同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合的に考慮して判断すべきである」と判示し,これら諸般の状況を総合的に考慮することが必要であることを明らかにしているところである。そして,その後の裁判所の判断方法はほぼ一様に上記の定式に従うものとなったと評価されている(菅野「労働法」第10版・134頁)。

(4)原判決はその実質,総合的判断の視点を欠いていること
 後に詳述するとおり,本件において,被控訴人には本件退職金規程の不利益変更を不可避のものとするほどの「財政上の理由」は何ら認められない財政状況にあったことは明らかである。原判決は,それにもかかわらず,先に引用したように,「本件退職手当規程を社会情勢適合の原則に合致し,国民の理解と納得を得られるものとするために,官民格差の是正という観点から退職手当の減額に向けた改正を行うという高度の必要性があった」(原判決38頁)との判断をなしたのであり,結局,官民格差是正という「高度の必要性」があるとの認識を,実質的に唯一の理由として,本件不利益変更を是認したものと評すべきものであり,就業規則の不利益変更の可否の判断において本来要請されている総合的判断の視点を実質的には欠落させたものと言わざるを得ない。

第2 通則法63条3項の解釈における原判決の誤り
1 通則法63条3項に関する原判決の論旨
 原判決は,前記のとおり,本件における退職金規程の不利益変更の「高度の必要性」(労働契約法10条)を認定する上で,官民較差の是正という視点を非常に重視しており,その判断の根拠として国立大学法人法35条が準用する独立行政法人通則法63条3項を挙げている。

 すなわち,原判決は,まず本件退職手当規程の不利益変更が高度の必要性(労働契約法10条)を有するか否かを判断する上で,いわゆる社会情勢適合の原則(国立大学法人法が準用する独立行政法人通則法63条3項)に言及し,同条ついて,「国立大学法人に対してその職員の給与水準に関する説明責任を負わせることで,適正な給与水準や効果的かつ効率的な業務運営の確保を促し,国民の理解と納得を得る趣旨であると解される。」との理解を示している(原判決36頁)。

 また,原判決は,本来本件に適用されない改正後通則法50条の10第3項 を引用し,「これは,運営費の大部分を国庫に依存する国立大学法人の職員の給与等の在り方について,納税者である国民の理解と納得を得る必要性が高まっていることを踏まえて,社会情勢適合の原則の実現のために必要な考慮要素を例示したものであって,改正前後で実質的な変更はないものと解される。そして当該要素の中には,『国家公務員の給与等』や『民間企業の従業員の給与等』が掲げられており,社会情勢と適合するためには官民格差の解消が要請されていることが端的に表現されている。」との見解を示している。

 その上で,原判決は,不利益変更の必要性について,「財政上の理由のみに限定されると解することはでき」ないとし,国からの「本件要請を踏まえ,本件退職手当規程を社会情勢適合の原則に合致し,国民の理解と納得を得られるものとするために,官民較差の是正という観点から退職手当の減額に向けた改正を行うという高度の必要性があった」(原判決38頁)と判示している。

 しかしながら,本書面の別項において検討するとおり,本件においては,被控訴人には,財政上の理由から本件退職金規程を不利益変更する必要性は全く存しなかったことは明らかであるから,結局,本件において,原判決は,財政上の必要性が認められないにもかかわらず,単に,社会情勢適合の原則に合致させ,国民の理解と納得を得る必要があるという,極めて抽象的な,しかも,被控訴人によりその立証は何らなされていないことを根拠として,「高度の必要性」が認められるとの判断を示したのである。

 原判決のなしたこのような通則法63条3項の解釈及びそれに基づく労働契約法10条の解釈適用は,以下に検討する通り,誤りである。

2 独立行政法人通則法63条3項の趣旨ないしあるべき解釈
(1)問題の所在
 原判決は,前記のとおり,退職金規程の不利益変更の「高度の必要性」(労働契約法10条)を認定する上で,官民格差の是正という視点を重視し,その根拠として国立大学法人法35条が準用する独立行政法人通則法63条3項を挙げている。いわゆる社会情勢適合の原則を規定する同条の解釈が重要な論点となる所以である。

 結論的に言えば,原判決は同条の規定する社会情勢適合の原則に関する理解を誤り,その結果,労働契約法10条の解釈適用を誤ることにより,本件に関する判断において大きな間違いを犯すものであって,その法令解釈の誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反と言わざるを得ない。

 以下においては,本件退職手当減額時の適用法令である改正前通則法63条3項の立法趣旨に照らして,原判決のなす同条の解釈が誤りであることを明らかにする。なお,この検討においては,国立大学法人が自主性・自律性を高度に保障された組織であり,労使自治の原則が高度に保障されていることに留意されなければならない。

(2)独立行政法人通則法63条3項の規定内容
 本件に適用されるべき独立行政法人通則法63条の条項は,次のとおり規定している(下線は,控訴人代理人が付した)。
(職員の給与等)
第六十三条
1 特定独立行政法人以外の独立行政法人の職員の給与は,その職員の勤務成績が考慮されるものでなければならない。
2 特定独立行政法人以外の独立行政法人は,その職員の給与及び退職手当の支給の基準を定め,これを主務大臣に届け出るとともに,公表しなければならない。これを変更したときも,同様とする。
3 前項の給与及び退職手当の支給の基準は,当該独立行政法人の業務の実績を考慮し,かつ,社会一般の情勢に適合したものとなるように定められなければならない。

(3)通則法63条3項の立法趣旨
 そもそも,通則法63条の趣旨は,独立行政法人における職員の給与等については,労使自治の原則に則って各法人が自ら定めることを原則とし,他方で,職務の公共性に鑑み,給与及び退職手当の支給基準については,法人の業務実績を考慮するとともに社会一般の情勢に適合したものとなることを期すことにある。すなわち,これらの観点を踏まえて職員の給与及び退職金の支給基準を定めることにより,支給基準の主務大臣に対する届出や公表と相俟って,国民への説明責任が果たされること,国民の納得と理解を得られるような適切かつ妥当な水準となることを期するものである。

 したがって,同条は,決して,無条件に国家公務員の支給率に合致させたり,寸分違わず民間企業との格差是正を要請したりすることを趣旨とするものではない(乙4・国立大学法人コンメンタール322頁参照)。すなわち,同条は,各法人に対して,給与及び退職手当の支給基準を一義的に決定するよう義務付けるものではなく,飽くまでも各法人における労使自治を原則としつつ,その支給基準が当該法人の業務実績及び社会一般の情勢に照らして不合理なものとならないことを要求しているものと理解することが相当である。

 この点,通則法63条3項が「法人の業務の実績を考慮し,かつ,社会一般の情勢に適合したものとなるように」と規定され,細かな考慮事項が規定されなかった理由について,「これは,これら(独立行政法人)の職員については,労働三権が十分に保障されており,労使間の交渉に委ねられるべき事項への干渉は必要最小限とすべきとの考え方によるものである。」と解されているところである。すなわち,通則法63条3項の適用においては,労働三権の十分な保障と労使間の交渉を原則とすることが求められているのである(甲26)。

(4)通則法63条3項の解釈において重視されるべき国立大学法人の自主性・自律性
 ア 国立大学法人法の趣旨目的
 国立大学法人は,憲法23条の保障する学問の自由,大学の自治の尊重の観点から,国立大学法人の自主性・自律性の確保を要請している。

 この点,『国立大学法人法コンメンタール』46頁(甲27)では,「独立行政法人については主務大臣が自らの裁量で独立行政法人の長を任命し,自らの判断で独立行政法人の中期目標を指示するなど主務大臣に独立行政法人の人事や業務について大枠で指図する権限が与えられているのに対し,国立大学及び大学共同利用機関の法人化にあたっては,日本国憲法23条に定める学問の自由の趣旨も踏まえ,大学の自主性・自律性等の特性に配慮しつつ高等教育・学術研究に対する国の責任を果たす観点から,ⅰ 国立大学法人の学長の任命は国立大学法人の申出に基づいて行う,ⅱ 文部科学大臣が中期目標を定めるに当たっては国立大学法人から意見を聴取しそれに配慮する,ⅲ 国立大学法人の評価については文部科学省独立行政法人評価委員会とは別に国立大学法人評価委員会を設け,特に教育研究については独立行政法人大学評価・学位授与機構が行う専門的な教育研究評価の結果を尊重するなどの独立行政法人制度とは基本的な制度設計の上で異なる仕組みとする必要がある。このような仕組みは前述のとおり独立行政法人通則法に規定する独立行政法人としての制度設計に合致するものではなく国立大学法人固有のものであることから,国立大学法人法は独立行政法人通則法に基づく個別法ではなく,これらとは別の固有の法人制度を定める法律として制定したものである。」として国立大学法人の自主性・自律性を尊重することが強調されている。

イ 国立大学法人の自主性・自律性の確保のための特段の配慮を求めた衆参両議院における附帯決議の存在
 国立大学法人法の制定に際しては,衆参両院において,国立大学の自主的・自律的な運営の確保の重要性を指摘する附帯決議がなされた。すなわち,まず衆議院においては,「政府及び関係者は,本法の施行に当たっては,次の事項について特段の配慮をすべきである。」として,「1 一国立大学の法人化に当たっては,憲法で保障されている学問の自由や大学の自治の理念を踏まえ,国立大学の教育研究の特性に十分配慮するとともに,その活性化が図られるよう,自主的・自律的な運営の確保に努めること。」,「2 国立大学の運営に当たっては,学長,役員会,経営協議会,教育研究評議会等がそれぞれの役割・機能を十分に果たすとともに,相互に連携を密にすることにより自主的・自律的な意思決定がなされるよう努めること。また,教授会の役割についても十分配慮すること。」等の内容の附帯決議がなされた。

 また,参議院においても,「政府及び関係者は,国立大学等の法人化が,我が国の高等教育の在り方に与える影響の大きさにかんがみ,本法の施行に当たっては,次の事項について特段の配慮をすべきである。」とされ,「1 国立大学の法人化に当たっては,憲法で保障されている学問の自由や大学の自治の理念を踏まえ,国立大学の教育研究の特性に十分配慮するとともに,その活性化が図られるよう,自主的・自律的な運営を確保すること。」,「2 国立大学法人の運営に当たっては,学長,役員会,経営協議会,教育研究評議会等がそれぞれの役割・機能を十分に果たすとともに,全学的な検討事項については,各組織での議論を踏まえた合意形成に努めること。また,教授会の役割の重要性に十分配慮すること。」等を内容とする,衆議院の附帯決議とほぼ同旨の附帯決議がなされたのである(甲12)。

 この衆参両議院の附帯決議に示された最大の趣旨の一つは,憲法23条が保障している学問の自由及びそのコロラリーとしての大学の自治の理念の下,国立大学法人の自主的・自律的な運営の確保のために国・政府は特段の配慮をすべきであるということである。したがって,これら附帯決議は,国立大学法人に対する国・政府による不当な介入や圧力はあってはならないということを当然に含意していると解されるのである。

(5)原判決は通則法の解釈を誤るものである
 ア 原判決の言及する改正後通則法50条の10について
 原判決は,改正後通則法50条の10第3項が本件退職手当減額当時の適用法令ではないとしつつ,考慮要素として通則法の改正前後を通じて実質的な変更はないとし,改正後の同条に,「国家公務員の給与等」,「民間企業の従業員の給与等」との文言が存することをもって,「社会情勢と適合するためには官民格差の解消が要請されていることが端的に表現されている。」として(原判決37頁),官民較差の解消を考慮すべき要素として殊更強調している。

 この点,そもそも,本件退職手当規程の不利益変更時点において,改正後通則法50条の10は施行法令ではない以上,同条の当てはめによって本件の結論を導くことは法令の時的限界を超えるものとして許されないことは多言を要しない。

 イ 改正後通則法も官民格差の是正のみを規定するものではないこと
 また,仮に,改正前の通則法63条3項の解釈をなす上で参考として改正後の条項を検討するとしても,改正後の通則法50条の10においても,法人が,無条件に,官民較差の是正のために退職手当の規定を改正することを義務付けられているものではないことは,以下に見るとおり明らかである。

 すなわち,改正後通則法50条の10について,その立法経緯を確認すると,まず,改正後通則法50条の1において,「公務員身分を有しない中期目標管理法人の職員は,民間の労働者と同様に労働関係法規の適用を受け,その給与等の労働条件は労使自治により決定するものである。」と規定されており,「考慮要素のうち,どの事項に重点を置いて考慮するかは労使に委ねられるものであり,労使交渉の内容を制限するものではないと考えられる。」と解されている(甲31)。

 かかる改正後通則法50条の10の立法趣旨に鑑みれば,改正後においてもやはり労使自治の原則が強調されているのであって,この原則に反するような解釈や運用は許されるものではないことは明らかである。

 そして,改正後通則法50条の10第3項の条文は下記のとおりであり(下線は,控訴人代理人が付した),そこにおいては,原判決が引用した「国家公務員の給与等」,「民間企業の従業員の給与等」のほか,「当該中期目標管理法人の業務の実績」,「職員の職務の特性及び雇用形態」「その他の事情」の考慮が求められている。したがって,原判決が,改正前後を通じて考慮要素に実質的な変更がないと言うのであれば,改正後通則法50条の10第3項に列挙されるこれら全ての考慮要素について検討されなければ,社会情勢適合の原則の解釈として誤っていると言わざるを得ない。
(職員の給与等)
第五十条の十  中期目標管理法人の職員の給与は、その職員の勤務成績が考慮されるものでなければならない。
2  中期目標管理法人は、その職員の給与等の支給の基準を定め、これを主務大臣に届け出るとともに、公表しなければならない。これを変更したときも、同様とする。
3  前項の給与等の支給の基準は、一般職の職員の給与に関する法律 (昭和二十五年法律第九十五号)の適用を受ける国家公務員の給与等、民間企業の従業員の給与等、当該中期目標管理法人の業務の実績並びに職員の職務の特性及び雇用形態その他の事情を考慮して定められなければならない。

 それにもかかわらず,原判決は,「国家公務員の給与等」「民間企業の従業員の給与等」との特定の考慮要素のみを取り上げて,官民格差の是正を殊更に強調する一方,「職員の職務の特性及び雇用形態」等,その他の考慮要素については,実質的には十分な検討はなしていない。とりわけ,後述するとおり,被控訴人の財政状況に関する検討は全く誤っており,検討していないのと同じである。

 このように,原判決の判断は,「国家公務員の給与等」,「民間企業の従業員との給与等」の要素のみを強調し,結局,官民格差の是正のみを強調するものであって,本来必要とされるその他の考慮要素に関する判断を欠落させるものであり,通則法の規定する社会情勢適合の原則の本来の趣旨からはずれた解釈をなすものであると言わざるを得ない。

ウ 原判決は「国家公務員の給与等」「民間企業との従業員の給与等」に関する具体的な検討も行っていないこと
 上記のとおり,原判決は,「官民格差の解消の要請」という点を殊更強調して,本件規定の不利益変更に「高度の必要性」が認められると結論付けている。しかし,原判決は,その前提として官民較差が実際にどの程度存在し,本件退職手当規程が果たして社会情勢適合の原則の観点からもはや改正しなければならない程度の水準となっていたのか否かについて,一切何ら具体的な認定と判断はなされていない。原判決は,官民格差の是正が国民の納得と理解を得ると位置付けているにもかかわらず,その根拠としての具体的な事実の認定が欠落しており,重大な判断過程の誤りが存するのである。

 すなわち,原判決は,控訴人らの職務の特性(高等教育機関における研究と学生育成,学内行政等の労務内容)について,国家公務員のどのような職種と比較されるのか,また,控訴人らと同様の民間教育機関における教職員の退職手当の水準がいかなるものであったのか等の具体的な諸事実について何ら検討していない。そもそも,この点について,被控訴人からの具体的な主張及び立証は一切なされていないのである。

 結局,原判決は,官民較差の存在の有無及びその程度に関して何ら具体的事実に基づくことなく,極めて抽象的に,「本件退職手当規程を社会情勢適合の原則に合致し,国民の理解と納得を得られるものとするために,官民較差の是正という観点から退職手当の減額に向けた改正を行うという高度の必要性があった」(原判決38頁)と結論付けるものであって,およそ客観的事実に基づく判断ではない。

 もとよりいうまでもなく,本来,司法における判断は,法令と客観的事実に基づいて,正義の観点からなされるべきところ,原判決のなした判断は,司法に求められた職責を果たすものとは到底言えないものである。

3 原判決の根本的な問題点 — 原判決は通則法63条3項の趣旨を誤り国立大学法人の自主性・自律性を侵害する帰結をもたらすものであること

 このように,原判決は,本件において,財政上の必要性が存しないにもかかわらず,専ら「社会情勢適合の原則」を殊更に重視し,のみならずそれを誤って適用することによって,本件において不利益変更についての「高度の必要性」があるとして,本件退職手当規程の不利益変更が有効であるとの結論を示した。

 結局,原判決は,被控訴人において,退職手当規程の変更を要するような財政上の必要性がないにもかかわらず,国からの本件要請に無条件に追従して本件不利益変更をしなければならなかったとの結論を認めたのと同価値である。しかしながら,この結論は,被控訴人が労使自治の原則に立って,その業務成績ないし財政状況を考慮して,退職手当規程の内容を決定していくという自主性・自律性を認めないという極めて不当な帰結をもたらすものである。

 このような誤った判断は,速やかに取消されなければならない。

第3 被控訴人は余剰利益による対応が可能であったこと
1 佐賀大学の財政状況
 経常利益のうち現金の裏付けのある部分について,目的積立金として利益処分を行う前に,退職手当として支給することは可能であり,これを禁止する法規制は何ら存しない(甲25,26,36,証人根本34〜36,77,103)。そのことは,被告側証人ですら認めている(証人佐藤175,205〜208)。原判決も認めるとおり,2012年(平成24年)度の未処分利益は約13億円であり,そのうち約7.1億円が現金の裏付けのある利益であるところ,本件退職手当規程の改正が無かった場合に必要となる金額は以下のとおりであるから,余剰利益による対応は可能であったことは明らかである。
    2012年(平成24年)度      5283万6193円
    2013年(平成25年)度    1億2581万7107円
    2014年(平成26年)度    2億0579万9218円
    2015年(平成27年)度    2億4236万9209円 (乙19)
2 原判決の判断の誤り
(1)原判決の判断内容
 これに対し,原判決(39頁)は,「原告らが主張する退職手当の支給は,当期中に退職手当の支給を行ってしまうことにより利益の発生を障害しようとするもので,実質的には,使途が限定され,人件費積増し等の目的外使用が禁止されている目的積立金を目的外に流用することにほかならない。」と判示する。

(2)原判決は大学の自主的決定をできなくするものである
 しかし,原判決のこの見解は,目的積立金の支出における規制を単年度の経費の支出にまで及ぼそうとするものであり,もはや法解釈の域を逸脱している。誤った解釈であるといわざるをえない。

 国立大学法人法が,剰余金(目的積立金)の使途について“文部科学大臣の許可”という規制を設けつつ,単年度の支出について何ら規制を設けていないのは,国立大学法人ごとの自主性・自律性を尊重する趣旨である(甲35・46頁参照)。原判決のように,ありもしない単年度の支出規制を解釈で作り出すことは,国立大学法人法の趣旨を没却するものである。

 もし,国立大学法人が原判決のなしたような考えに基づかなければならないとするなら,特殊運営費交付金を財源としない全ての人件費の支出は,「実質的には,…目的積立金を目的外に流用すること」になってしまうため,一切許されないことになる。その結果,国立大学法人の役職員の給与や退職金の額は,国に定められた特殊運営費交付金の額に拘束され,労使間による団体交渉で決する余地は全く無くなるという帰結をもたらす。

 しかし,国立大学法人の役職員は,労働基準法や労働契約法,さらには憲法28条の労働基本権が適用される労働者である。それにもかかわらず,国立大学法人の役職員の賃金や退職金については団体交渉の余地が無いというのは,明らかにおかしい。原判決に基づけば,国立大学法人の役職員の団体交渉権(憲法28条)は“賃金や退職金については交渉できない”という制約があることになるが,法律によって制約を受けることが無いはずの憲法上の権利が,財政上の規制によって制限を受けることになるのは,明らかに誤った法解釈である。

 また,先にも触れた通り,国立大学法人法35条が準用する独立行政法人通則法63条3項は,国立大学法人の職員の給与及び退職手当の支給基準について,「業務の実績を考慮し,かつ,社会一般の情勢に適合したものとなるように定められなければない」と規定しているが,原判決に考えに基づけば特殊運営費交付金の額を超えた人件費を支払う余地は全く無くなるのであるから,国立大学の役職員の給与・退職金について「業務の実績に考慮」して決することは事実上できなくなり,本条項は全く空文化することになるという帰結をもたらす。

 以上のとおり,原判決の前記の解釈は,憲法28条に反するとともに,国立大学法人法35条が準用する独立行政法人通則法63条3項を空文化せしめるものであり,明らかに誤っている。

(3)原判決は被控訴人の財政状況の判断を誤っている
 また,原判決(39頁)は,「かかる退職手当の支給により,被告は,中期目標及び中期計画等に沿って教育研究の充実,キャンパス環境充実及び附属病院再整備を計画的に進めていく必要性があったにもかかわらず,同年度以降にこれを予定通り行うことに多くの財政的制約が生じることが容易に想定できるところであり,そうであれば,被告は,本件退職手当規程改正当時,原告らが主張する特殊要因運営費交付金以外の収益による退職手当の積増しを行わないこととした被告の判断は合理性を有する」と判示する。

 しかし,将来,被控訴人の財政状態が悪化するのであれば,その危険が現実化したときに改正を検討すれば足りるはずである。未だ何ら財政悪化の危険性が現実化していないにもかかわらず,将来の不安感のみを理由に本件改正を肯定することは,労働者の基本的権利を蔑ろにするものであり,極めて不当な考えである。極論すれば,改正当時(2012年(平成24年)度)に必要な金額は5283万6193円であるのに対し,2012年(平成24年)度の未処分利益のうち約7.1億円が現金の裏付けのある利益であったのであるから,かなりの余裕をもって賄うことができたのであり,財政状態の悪化の危険性は全く生じていない段階であった。

 この点でも原判決の判断は明らかに誤っている。
3 佐賀大学は流動資産を十分に有しており財政状況が良好であったこと
(1)控訴人の主張
 本件退職手当規程改正当時,被告は多額の現金及び預金を有しており,被告には財政的な余裕があった(甲25,26,36,証人根本33等)。この点,被告側の専門家証人も,「被告である国立大学法人佐賀大学の財務諸表等の数値だけを見れば,確かに現金・預金等が一定額存在し,利益も一定額以上計上されたことは確かなことです。」と述べており,被告の財政状況が良好であることを認めている。

 このように被告に財政的な余裕があったことは,原告側の専門家証人のみならず被告側の専門家証人も認めるところであり,明らかというほかない。

(2)原判決の流動資産に対する理解の誤り
 これに対し,原判決(39〜40頁)は,「現金及び預金については,既に使途が定められていたり(貸借対照表の流動負債欄),当期未処分利益として,翌年度以降目的積立金として中期計画に定める剰余金の使途に充てることができるにとどまることから,多額の現金及び預金があることをもって,被告に本件差額分を支出するための余剰金があるとは認めがたい」と判示する。

 しかし,甲第26号証6頁目でも指摘しているとおり,流動負債を控除する形で資金をとらえるのであれば,現金及び預金だけでなく流動資産全体を控除の対象とすべきである。なぜなら,流動負債には短期に資金流出する未払金等が在る一方,流動資産には短期に資金化される未収金等が在るからである。その点を無視していかにも資金が不足するかのように述べるのは全くの誤りである。

 そして,被控訴人の2012年(平成24年)度末の流動資産残高は約179億円であり,流動負債を約73億円上回っており(乙第23号証の「貸借対照表」),被控訴人において十分な流動資産が存在していることは明白である。

 また,剰余金としての規制にかからしめるのではなく,当該年度において経費として支出すれば足りることは,前項で述べたとおりである。

(3)小括
 貸借対照表やキャッシュフロー計算書からは,自己資本比率の高い安定経営であること,十分な流動資産が存在していることが読み取れるのであり,財政的に不安定な状態ではないことは疑いようがない。
 原判決の判断は全くの的外れであり,議論を正確に理解しないまま,誤った判断を行ったものであるといわざるをえない。

第4 不利益変更の合理性に関するその他の諸事情に関する原判決の判断の誤り
1 「本件退職金規定における不利益の程度」について判断の誤り
(1)原判決の判断内容
 この点,原判決は,
① 原告らの本件規程による退職金の減額率は約5.77%で,国家公務員の退職手当の減額と全く同率であって,原告らの受けた退職金も社会一般の退職金の水準に照らし決して低いものとはいえない。
② さらに,原告らは退職後に年金を受けることが確定しており,それも社会一般の年金の水準に比して決して低いものとはいえない
ことを理由として,原告らの被った不利益の程度は限定的なものに留まり,看過できないほど大きいとは言えないと判示した。

(2)「不利益の程度」の概念に関する理解の誤り
 しかしながら,原判決は,「不利益の程度」という概念を全く誤って理解している。労働契約法10条は,使用者が一方的に定める就業規則を労働者に不利益変更することが例外的に許される合理性のファクターとして「不利益の程度」を規定するが,「不利益の程度」を検討するに当たっては,元の就業規則での労働条件と新たな就業規則での労働条件とを比較し,その落差(労働者にとっての不利益)の程度をいうものと解すべきである。

 しかるに,原判決は,不利益変更される新旧就業規則の比較とは関係のない事項である,社会一般の退職金の水準から見て改正後の退職金は低くないとか,年金があるなどという,「不利益の程度」とは無関係のことをもって,「不利益の程度」が「看過できないほど大きいとまではいえない」と判示しているのである。とりわけ,退職金受給権者が退職後どれだけの年金を受給するかということなど,退職金の減額の不利益の程度を検討する上で全く関係のない事項であって,原判決の判断はこの点においても極めて不当である。

 したがって,原判決は,「不利益の程度」の法解釈を誤っていると言わざるを得ない。

(3)本件における不利益の大きさに対する判断を誤っている
 さらに,その結果,原判決は,「不利益の程度」は看過できないほど大きいとはいえないという事実認定の誤りを犯している。

 京都大学事件第一審判決でも認められた,一般給与について4.77%の減額は不利益の程度は大きいという常識的判断は,退職金の5.77%の減額にもいえることである。京都大学事件の判断も当然,社会一般から見て給与が高い安いなどという比較はしていないことも当然である。なお,代償措置があれば,その存在及び程度をもって不利益の程度が緩和・軽減されるということはありうるが,本件では代償措置が全くないのであるから,不利益の程度が小さくなることもないことに留意が必要である。

 また,原判決は,国家公務員の減額率と同額にすぎないことを本件での不利益の程度が大きいとはいえない理由としている。しかしながら,国家公務員の減額そのものの是非やその減額率が高いか否かという実質的判断を全く避けて合理化している前提に問題がある。さらに,国立大学法人の給与や退職金については,国立大学法人法で準用される改正前の独立行政法人通則法63条3項においても,当該法人の「実績を考慮し」て決定するということが第一なのであるから,国家公務員と引き合いに出して大した不利益ではないなどと評価することもできないはずである。

 したがって,不利益の程度が大きいことは明白である。

2 「改正後退職規定の内容の相当性」についての事実認定の誤り
(1)原判決の内容
 この点,原判決は,
① 官民格差解消のための国家公務員の退職手当の減額と同様であって,段階的削減の緩和措置を備えている内容であること
② 被告の8事業場のうち6事業場の過半数代表者が積極的又は消極的に同意していること,
③ 多数の国立大学法人が被告と同じ退職手当規程の変更を行っていること
から,本件退職金の減額規定への変更は十分な内容の相当性を有している旨判示している。

 しかしながら,原判決のこの事実認定は誤りである。

(2)官民格差解消との点
 非現業の国家公務員と国立大学法人の職員とでは,官民較差の有無・程度の判断においてその比較すべき対象は異なる。すなわち,非現業の国家公務員では,民間の特定の業種などと比較することは極めて困難かつ不相当なため,民間全体との比較にならざるを得ない。しかし,大学については私立大学という民間業態との比較が最も妥当かつ相当である。それが自主性・自律性を旨とする国立大学法人に準用される独立行政法人法63条3項の「業務の実績を考慮し,社会一般の情勢に適合する」の解釈としても重要となる。

 そうすると,以下に見るとおり,私立大学との比較において,国立大学の教職員の給与や退職金の額が高額であるということはできない。むしろ,逆に,一般に国立大学よりも私立大学の方が教職員の給与・退職金は高いといわれているところである。

 例えば,人事院が行っている民間給与調査として私立大学教員の給与を公表しているが,それによれば,平成23年4月の平均支給額は,私立大学の教授で平均73万9403円(平均年齢56.5歳)である。また,東京の私立大学と東京を含む国立大学の比較でいえば,国立大学の最高号俸の月額本給は58万2600円であるのに対し,私立大学は大手から中規模,小規模によってばらつきはあるが,70万5100円から66万1100円であり,私立の方が高額である(甲33)。また,他の資料においても国立大学教員の月額給与は私立大学教員のそれよりも平均して約5万円ほど低い(甲34)。

 退職金についても,大学教員退職金支給率を国立・私立で比較すれば,例えば勤続30年で国立は50.7ヶ月(引き下げ前),私立は大手・中規模・小規模で63ヶ月から40か月である(甲33)。概して,国立は給与は私立より安く,退職金の支給率は私立の平均程度ということになる。

 したがって,原判決が何らの具体的事実を示さないことに加え,そもそも国立大学の教員が民間よりも給与・退職金が高いという事実自体そのものが一切存しないのであって(甲33〜34),原判決がその結論を導くうえで根本的な理由としたところの官民較差是正の必要性自体がなかったというべきであるから,本件退職金引下げの内容が相当であるなどということは到底できないことは明らかである。。

 よって,原判決の上記①の判示は誤りである。

(3)上記②の過半数代表者の同意の有無について
 この点,8事業場のうちの6事業場の過半数代表者が明確な反対をしていないことは事実である。しかしながら,被告の運営する佐賀大学は当時5学部を擁し,そのうち4学部は本庄事業場に集中している。教職員の人数も1931名中711名(2012年(平成24年)5月1日現在)である。その本庄事業場の過半数代表者が明確な反対意見を述べており(甲41,乙45),またきちんとした説明をしていないことを指摘し説明会を要求している(甲24,41)ところである。この本庄事業場の過半数代表者の反対は労働者が同意していない状況について重要な意味を有する。

 さらに,過半数代表者への意見聴取が,本件規程の改定の効力発効後に行われており,被告は既成事実を完全に作ってから意見を聴取するという法律上本来求められた手続に反するやり方を採っている。既成事実作成を完了してしまっている場合の人間の反応(諦め等)を巧みに利用したものであって,内容の相当性を認めるファクターとして使えないものである。

(4)代償措置も不利益回避の時間的余裕もなかったこと
 さらに,代償措置がない上,本件不利益措置の決定がメールで連絡されたのが2012年(平成24年)12月28日という同年内の最終勤務日であって,翌25年1月1日からの施行ということとの関係で不利益を避ける猶予等もなかったものである。

(5)小括
 上記の諸点に鑑みるならば,本件不利益変更には内容的相当性の点からも全く合理性が認められないと言わざるを得ない。

3 「労働組合との交渉状況について」事実認定及び評価の誤り
(1)原判決の内容
 原判決は,
① 2012年(平成24年)12月25日の本件組合と団体交渉を行い,改正の背景事情及び必要性の説明を行った,
② その説明は,改正の施行日は2013年(平成25年)1月1日で他の国立大学法人と改正時期と歩調を合わせる必要があったことからすれば,当時成しえた可能な限りの説明であった,
③ 財政上の必要性について説明せず,財務レポートを見てほしいと述べるにとどまったとしても,同レポートが一定の開示機能を有していたから,その説明にも合理性はある。
旨判示した。

(2)被控訴人は財政上の必要性について組合に殆ど説明していないこと
 しかしながら,給与や退職金などの労働者の重要な権利を一方的に不利益に変更する場合には,先に詳論したとおり,「高度の必要性」がなければならず,そしてその判断要素の中心には,当然,法人の財政状況における必要性がなければならないはずである。したがって,労働組合との団体交渉での説明も財政状況から見た必要性の説明をすべきことは明らかであり,2012年(平成24年)8月ないし9月から改正に向けて被告は準備してきたのであるから,その説明準備も十分にできたものである。しかるに,被控訴人が財政状況から見た必要性を具体的に説明することは一言もなかったのである。それは,“国から要請されたから仕方ない”式の形式的説明に留まると評価せざるを得ないものである。

(3)被控訴人には時間的制約はなかった
 さらに,他の国立大学と歩調を合わせて2013年(平成25年)1月1日施行する必要があったということ自体誤りである。すなわち,本件退職金の減額は,国からの命令ではなく要請に過ぎない上,各国立大学法人は自主的に決定できるものである。時期についても各国立大学法人ごとに遅らせる等の判断も十分可能であったし,現に遅らせる大学も存在した。

 なお,京都大学未払給与支払請求事件控訴審判決(大阪高裁平成28年7月13日判決,同庁平成27年(ネ)第1943号)ですら,給与減額の実施時期,減額率,対象職員の範囲については各大学で裁量的に自主的に決めることができると判示していることを指摘しておく。

 よって,最も重要な財政状況について一切の説明をしない合理性はないし,それは形だけを整えたものにすぎない。結局,実質的な団体交渉は行われず,労組による基本的な質問にすら答えないまま,本件規程の改定を強行したものである。

 以上から,原判決の上記判示は,労働組合との交渉状況に関しても,その事実及び評価を誤っている。

4 就業規則の不利益変更の際,個別労働者への周知を履行したか否かについて
(1)原判決の内容
 この点,原判決は,
① 被告は2012年(平成24年)12月26日,本件規程の改正を決定し,同月28日までに改正の内容等を職員へのメールで送信した,
② そのメールは施行直前ではあったが,当該年度退職予定者には同年9月27日には当該規程の改正の見込みを知らせ,同年11月29日には具体的予定金額を知らせていること,
③ 組合には11月29日に知らせ,12月21日に予備交渉,12月25日に団体交渉をしているなど,
④ 被告職員は,改正によって適用される労働条件の具体的内容を理解できる
 ことから,上記電子メールの配信で覚知しうる状態となったと評価するのが相当であり,「周知」させる手段を採っていた旨,判示した。

(2)周知と言えるための要件
 しかし,フジ興産事件最高裁第2小法廷判決(平成15年10月10日,労判861号5ページ)で判示されたように,個々の労働者に就業規則の通知がなされなければならない。それは,就業規則の効力要件である。

 本件では,被告の所属する個々の労働者に連絡があったのは,改正の効力発生が2013年(平成25年)1月1日からであるというのに,2012年(平成24年)12月28日という直前で,かつ電子メールという方法であった。その12月28日がいわゆる御用納めの日であって,それから不利益措置の回避を取ることは不可能である上,メールを毎日チェックするかどうかは,被告の職員の多忙さやメールを開封できない等その他の事情のため確実でない状況であった。

 また,12月28日に電子メールで送信されても,2013年(平成25年)1月1日より以前に退職手続きを採ることは辞表の提出により即時に効力が生じるとしても事実上不可能だった。ましてや,被告においては少なくとも退職を予定する日の30日前までに学長に退職手当を提出しなければならない(被告就業規則16条(甲43))のであるから,不利益を回避することは完全に不可能であった。

 このような杜撰な電子メールでの送信は,就業規則の不利益変更の有効性との関係では「周知」したことにならず,周知義務違反があると言わなければならない。

 なお,このような杜撰な周知でも問題がないとする原判決の判断の背景には,他大学と歩調をそろえて2013年(平成25年)1月1日から実施する必要があったという発想があると思われる。しかしながら,前述したように,上記必要性は認められないのであるから,瑕疵ある周知であり,就業規則の不利益変更の場面で要求される周知義務を果たしたことにならないとの結論は変わらない。

第5 結論
 以上,詳細に検討したとおり,原判決には法令解釈に関する重大な誤り及び判決に影響を及ぼす重要な事実に関する事実誤認が存するので速やかに取消されるべきである。
                                以上
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