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読書メモ:ブレディみかこ「労働者階級の反乱 地べたから見たEU離脱」

1401577.gif12/3の毎日同じく赤旗に書評が掲載されました.
51fqlS6HJoL._SX303_BO1,204,203,200_.jpgこの10月に出たばかりの,ブレディみかこ氏の「労働者階級の反乱 地べたから見たEU離脱」について.

EU離脱決定の「地べたから見た」様子,そして,労働党を中心に戦後のイギリス政治史の一側面を見ることが出来る.絶望的に見える日本の政治状況を変えていく重要なヒントがいくつもあるようだ.
3部構成で,Ⅰ部は著者自身の知り合いの人々とのインタビューで,なぜ人々はEU離脱を選んだかを探っている.Ⅱ部とⅢ部は,それぞれジャスティス・ジェストセリーナ・トッド の著書を参考にしたものと断られている.これら最後の2つの部分は,どこまでが引用でどこからが筆者自身の見解・分析なのか,ちょっと分かりにくい.

印象に残った箇所をいくつかピックアップすると・・・.(クリックで引用先へジャンプ.太字は引用者による)

(1)IMFとは何ものか.p.238
(2)ポジティブな言葉で語ること.左翼・リベラル陣営は「xx反対」「yyを守れ」という,ネガティブ,現状維持的なスローガンを使いがちだが,それだけではダメということ.p.269
(3)「ドブ板」ちがい.「仲間うち」だけの集会や学習会で終わっていてはダメということ.護憲の3千万署名も,このような「ドブ板」活動になれば有望な手段になるかも知れない.p.53〜55
(4)なぜ人々はEU離脱を選んだか,決して単純な「移民排斥」ではないということ.労組の弱体化の問題.p.75〜.


(1)IMFとは何ものか.p.238
トニー・ベンは、IMFによる緊縮財政の押し付けは、国際資本が好ましくない政権を潰すためのトラップであり、そこに嵌まり込んだら労働党政権は二度と立ち上がれなくなると主張した(どこか2015年のギリシャ債務危機を思い出させる)。
トニー・ベンとは,現労働党党首のジェレミー・コービンの師とされる,1970年代の労働党左派議員.

(2)ポジティブな言葉で語ること.左翼・リベラル陣営は「xx反対」「yyを守れ」という,ネガティブ,現状維持的なスローガンを使うが,それだけではダメということ.p.269
反緊縮を鮮明に打ち出し、「21世紀のケインジアン」とも呼ばれたコービンの大胆な経済政策は、オーウェン・ジョーンズやセリーナ・トッドをはじめとする英国の若手左派論客たちに拍手で迎えられ、彼らはコービンの熱心な支持者・協力者になった。
コービンの政策や人柄に惹かれて労働党に入党する人々が激増し、彼が党首になってから党員数は2倍以上に膨れ上がったが、逆に労働党議員たちのほとんどは、コービンを時代遅れの強硬左翼と見なし、彼では絶対に選挙には勝てないと考え、その退任を願っていた。
だから、メイ首相が、今後のブレグジット交渉における党内外での自分の立場を盤石にするため、2017年6月に解散総選挙を行なうと発表したときにも、「労働党は惨敗するだろう」というのが党内外の人々の大方の見方だった。
しかし、ここで何かが起こった。
それまでは、若者や一部の社会運動に熱心な人々に支持されてきた「反緊縮」の概念が、「未来への投資」「投資する政治」という、よりニュートラルな言葉遣いでわかりやすくなった労働党マニフェストのスローガンによって、一般の人々に広がっていったのだ


(3)「ドブ板」ちがい.「仲間うち」だけの集会や学習会で終わっていてはダメということ.護憲の3千万署名も,このような「ドブ板」活動になれば有望な手段になるかも知れない.(p.53〜55)
労働党は、「激戦区」と呼ばれる前述のような中北部の地域印区で、集中的なドブ板活動を展開した。しかも、こうした戸別訪問キャンペーンの中心になったのは、コービン効果で労働党に入った若者たちだったのだ。
コービン派の若者たちは、大学生や大卒のインテリが多く、地方の労働者階級の人々とは劇的に違う価値観や、考え方を持っている。この左派と労働者階級の意識の乖離が、左派の苦戦の原因であり、これを乗り越えなくては労働党の復活はあり得ないと、労働党の影のアドバイザーともいえる若手論客オーウェン・ジョーンズは繰り返し嘆いてきた。
労働党とコービン派の若者たちは、それを克服する方法を見つけたようだ。「ツイッターで政治を議論し、たまにデモに行くのが政治活動だと思っている」といわれていた左派の若者たちが、中北部の労働者階級の街に行き、一軒一軒地域の人々の家のドアをノックし、地べたの労働者たちと語り合う姿は、何か非常に古くて新しい政治のはじまりを予感させた。
ふだんだったら知り合う機会もないだろう、まったく異なるクラスタの人々が、語り合い始めたからだ。こうしたドブ板の結果、50の激戦区のほとんどで労働党は勝っている。
コービン派の若者たちにドブ板の重要性を教えたのは、米国のバーニー・サンダース(*2016年米国大統領選挙の民主党候補者選びでヒラリー・クリントンを相手にまさかのまさかの大接戦を繰り広げた無所属の政治家。貧しい人々、弱い立場の人々の側に立ち、驚異的な支持を集めた自他ともに認める社会主義者)の陣営だった。メイ首相が解散総選挙を発表するや否や、コービン陣営とサンダース陣営が繋がり、サンダースの大統領選でキャンペーンを行なったスタッフ4人が英国に渡り、各地で労働党の選挙ボランティアを対象に、「ドブ板のやり方」のセミナーを開いた彼らが実際的、実地的な訓練をコービン派の若者たちに伝授したのだ。
こうした地に足のついたグラスルーツ型(草の根型)の運動は、労働党にとって、自分たちの政策を直接有権者たちに広めるだけではなく、市井の労働者たちが何を考え、どんな不満や不安を抱えているかということを知り、それに合わせて軌道修正を図る上でも有効な方法だという。若者たちのドブ板は、労働党のフィールドワークでもあるのだ。
コービンは、今後も平素からこうした選挙活動を続けていくと宣言している。
実際、わたしが住んでいる公営住宅地でも、コービン派の若者たちが活動をはじめいる。これまでは、UKIPやBNP(英国国民党)などの右翼政党の党員しか活動していなかった、大政党には見捨てられてきた地区だが、その地域のど真ん中にあるコミュニティセンターで、先日もコービン派の若者たちがマイケル・ムーアの『シツコ』の上映会を行なった。このような映画は、ふつう、大学生やお酒落でヒップな人々が多い街のミニシアターで上映されるもので、それがうちのような公営住宅地の、しかもコミュニティセンター(公民館みたいなものだ)で上映されるというのでびっくりしたが、上映会の後には、米国の医療システムの問題と照らし合わせて、NHSの問題を語り合うディスカッションも行なわれていた。これなどはまさに地域に根差したグラスルーツ型の活動である。

(4)最後に,本では初めの方だが,なぜ人々はEU離脱を選んだか,筆者の知り合い数人へのインタビューの中から引用.6人の対象者のうち,冒頭のサイモン(仮名)の部分から大部分.p.75から.
-あなたがブレグジットに投票したことは知ってるけど、もう一度その理由を教えてくれる?

「あの状況ではその選択しかなかっただろう」

-どうして?

「誰も俺たちの言うことなんか聞いてやしないときに、俺たちがこの国を変えられるチャンスをもらった。使わずにどうする、と思ったね」

-どういう風にこの国を変えたかったの?

「俺たちの言うことを金持ちゃエスタブリツシユメントは聞いてない。俺は、政治をするのは奴らでいいと思っている。俺たちみたいな労働者は、難しいことはわからねえから、本来は政治になんて足を突っ込んじゃいけない。
でもあいつらがあまりにも俺らを無視しているから。今は労働組合も組織率が低くなって・・・・、移民や若者は組合なんか入りゃしねえから、闘うこともない。・・移民は本当に金だけ稼いで自分の国に持って帰るから、彼らはこの国の労働者の待遇の改善なんて全然興味ない」

-でも、移民だってこの聞にいる聞はきちんと税金払って働いているわけだし、移民労働者は英国経済にも貢献してるよね?それに、この固に根を張って生活する人たちだっているし。

「でも、そういう移民を安く使って、太る一方の金持ちたちがいる。・・・俺がこういうことを言うと、大学生の甥つ子が『叔父ちゃんはプレグジツターだ』って怒るんだけど、この国の労働者の待遇をどんどん悪くしているのは、労働運動にも加わらず、一雇用主とも闘わず、反抗もせずにおとなしく低賃金で働く移民だよ」

-じゃあ、サイモンの場合は、やっぱり移民が原因でブレグジットを選んだってこと?

「勘違いしないでほしいが、俺は移民は嫌いじゃないんだよ。いい奴もいるしね。嫌な奴もいるが。そりゃ英国人だって同じだ。
・・・俺は英国人とか移民とかいうより、闘わない労働者が嫌いだ。黒人やパングラ系の移民とか、ひと昔前の移民は・・・この国に骨を埋めるつもりで来たから、組合に入って英国人の労働者と一緒に闘った。でもEUからの移民は、出稼ぎで来てるだけだから、組合に入らない。
この国の労働者たちの待遇改善なんて彼らにはどうでもいい。自分たちが金を稼げて本国にそれを持って帰って家のローンを終わらせれば、それでOK。労働者の流動性は組合の力を弱めたと俺は思うね」

-サイモンがそんなに組合に思い入れがあるなんて知らなかった。あなたは労働者っていうより旅人っていうイメージだから。

「俺はいろんな国を旅したけど、組合が弱い国の労働者つてのは、やっぱどこでも惨めなものなんだ。俺らが若い頃は、英国の組合はまだ強かった。俺は自分の国の組合に誇りを感じていた」

-でもそれ(組合の弱体化)は、サッチャーやブレアの影響が大きいよね?移民のせいというより。

「政治家が労働者階級のことなんて考えるわけないのは当たり前だ。だから俺たちが俺たち同士で団結してあいつらと闘わなきゃいけないのに、若い奴らとか移民とかはそんなこと考えてもみない。だからどんどん悪くなっていくんだ、そんなのあたりまえだ。
賃金が低くなって、待遇は最悪になって、『ゼロ時間雇用契約』(*雇用主が必要とするときにだけ労働者に仕事を提供するという待機労働契約。週あたりの労働時聞が保障されない)なんて、昔は想像もできなかった。で、みんな黙っておとなしくクソみたいな契約で働いている」

-黙ってるってことはないと思うよ。組合はゼロ時間雇用契約を結ばないようにって呼びかけてたよね、被雇用者側に。でも本当に仕事がない人は、やっぱり結んじゃうと思う。何も仕事がないよりいいからって。

「ゼロ時間雇用契約もアレだけど、完全歩合制なんかもひどい搾取だ。『毎月口座からチャリティーに寄附が引き落としされるようにしませんか』とかいって、動物愛護のチャリティーのベストやら、恵まれない子どものための基金のTシャツやら着た若い奴らが家に訪問してきたりするだろ。あいつら、完全歩合制だから、一つも申請書にサインしてくれる奴がいなかったら、タダ働きらしい。寒い冬の日も、雨の日も、やってるだろ、あいつら。どうしてああいう手合いが増えてんだ、こんなに。しかも、ああいうタダ働きしてんのは、みんな英国人の若者ばっかりじゃねえか」 ・・・・

Justin Gest , “The New Minority - White Working Class Politics in an Age of Immigration and Inequality”,Published: 17 November 2016

セリーナ・トッド (Selina Todd)「ザ・ピープル イギリス労働者階級の盛衰」(みすず書房,2016年8月25日発行).原書はJohn Murray, 2014
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バッジ@ネオ・トロツキスト

ヨーロッパも日本も、状況はあまり変わりませんねw
旧スタ系も旧トロ系も社民も新・新左翼も、世界中で無能無力を晒し続けています。だから新自由主義の席捲や排外主義・ポピュリズムの台頭を許してしまってもいる。

http://article9.jp/wordpress/?p=9533

欧州左翼がEU対応をめぐって混迷している理由は、直接的にはレーニン、トロツキーの20世紀初頭の論争(↓)を放置したままで「一国社会主義」や一国変革主義の幻想に呪縛されていたからでしょうが、この問題以外でも、20世紀左翼は資本制の成立⇒発展⇒死滅という歴史過程について、ちっとも直視、考察してこなかったことが今日の重大な思潮状況、政党・党派状況になっているのだと思います。

https://www.marxists.org/nihon/trotsky/1920-2/jigi.htm

そう、資本主義の構造性については、ハイデガーや宇野弘蔵的な「果てしなき物象化論」の立場でその循環運動しか見ず、資本主義の体制的歴史性(変化発展性)については階級闘争史観や所有形態至上主義という観念論(主観的意思主義)を妄信し、マルクスの「経済的社会構成体の発展を自然史過程とみる」(『資本論』前文)立場を「自動崩壊論だ」などと曲説する無理解や暴論さえ蔓延させていた。(レーニンでさえ、「自然発生性への拝跪」は批判しても、自然発生性の存在それ自体は否定していなかったのにね)

だから、ヨーロッパの知性も、マルクス個人への高い評価にもかかわらず、「マルクス派的」な現実の党派には支持も期待も寄せない(第二千年紀終了間際に各国で行われた歴史的偉人評価調査では、多くの調査でマルクスがキリスト以下を抑えてトップに選出されていた)ような状況が続く。
現実社会の中では、既に多くの萌芽が産まれているのにである。資本の「自己批判形態」として、未来社会への通過点になっているような社会的形態が次々に登場してきているにも関わらずである。

今日の人類社会では、資本の生産力昂進は、武力自衛政策の破綻のような平和・外交的次元の問題から、労働の社会化の全面化による分配問題での過渡形態の出現のような問題まで俎上に乗せ始めている。
「交換価値に立脚する生産の終焉」といったマルクスの展望(『経済学批判要綱』資本章末尾部分などを見よ!)さえ現実の資本のシステムの体内に顕在化させ始めている。(だから、今日の分配問題は、賃労働制度の枠内で差別賃金や非正規雇用などに反対するだけではなく、賃金形態を超えた分配様式にまで射程を伸ばさなければならないのだ!⇒例えば、脱製造業時代における「ベイシックインカム」制度の評価)

ところが、凡百の左翼や自称「マルクス派」は、こういった未来への唯物論的基礎を全く視野の外に放置したままでいる。生活防衛や目先の改良の課題だけに眼が奪われて、「革命」の立場が忘れ去られている。政治・哲学的にも経済学的把握態度においてもである。「領有法則の転回」運動が人々の社会的価値意識・変革主体形成に果たす役割にさえ気づかず、唯物論の課題を「天賦人権論」のような観念論に代行させ続けて事足れり顔をしている。
そう、「マルクスの立場」や「唯物弁証法的把握態度」は、全てどこかに忘れ去られて来たのである。あるのは、せいぜい教条解釈だけである。(「不破哲三氏のマルクス主義」を視よ!)

ま、「犬が吠えても歴史は進む」ではあるが。
ただし、自然発生性に委ねてしまうと、犠牲も大きいのですぞ!

by バッジ@ネオ・トロツキスト (2017-11-30 10:58) 

バッジ@ネオ・トロツキスト

私のマルクス的世界把握が不破氏などより優位性を持てるとしたら、その原因は「労働」を根底に据えた世界把握に努めるからです。

そう、社会的諸形態、社会的諸関係を発生させている根源は、20世紀の政治的意識が囚われ続けた階級闘争や生産手段の所有などではなく、労働なのであることが自覚されねばならないということ。
階級闘争や所有をも根源で規定しているのは労働の社会化の水準であり、その現実的到達点を直視することこそが、世界の総体的把握を保障し得るのだということこそマルクス的把握のイロハでしょう。

そして資本関係に包摂された労働は、物質的生産部門の賃労働としてはもちろん、非物質的生産部門(マルクスが「精神的生産」とも「サービス」とも呼んだ労働部門)でも駆逐され始めている。
産業(=製造業)部面のみならず、科学的基礎研究や福祉・対人サービスの現場にまで導入され始めているロボット。FAからOA、HAにまで至っているIT化やAIの導入と共に、必然の国のほとんどの人間労働はやがて駆逐することになるであろうことは直視されるべきです。
そして、かかる生産力発展の到達点は、分配問題をも不可避的に引き出す。資本主義的労働と分配に対し、全面的な影響力を行使するようになる。
資本の下への形式的な包摂ではなく、資本関係からの超出の必要を人間意識に否応なく訴えるようになる。

そういう対象把握態度を忘れた「マルクス主義」や左翼では、人類に展望はおろか緊急の改良政策さえ与えられなくなるのではないでしょうか。

労働に回帰せよ!ということです。

by バッジ@ネオ・トロツキスト (2017-11-30 13:34) 

yamamoto

初めのコメントの
>だから新自由主義の席捲や排外主義・ポピュリズムの台頭を許してしまってもいる。
について.

紹介した本では,アメリカのトランプ現象と比べ,イギリスのブレクジットをめぐる現象では,排外主義の様相は少ない,ということが書かれています.

2番目のコメントについて.
>資本関係に包摂された労働は、物質的生産部門の賃労働としてはもちろん、非物質的生産部門(・・・)でも駆逐され始めている

労働そのものが社会から「駆逐」されている,という意味ですか?それとも「資本関係から駆逐」?
どちらだとしても理解できません.いかにAIや機械化が進もうと,「役割分担」が変わるだけで,労働が「駆逐」されることはないでしょう.そしてそれが,資本主義社会である限り,資本によって搾取され続けることも.
by yamamoto (2017-11-30 18:00) 

バッジ@ネオ・トロツキスト

つまり問題は、こう立てるべきなのです。

「生産的労働と社会主義」!!!


by バッジ@ネオ・トロツキスト (2017-11-30 18:00) 

バッジ@ネオ・トロツキスト

>そしてそれが,資本主義社会である限り,資本によって搾取され続けることも.

この思考こそが、転倒でしかないということを良くご自覚ください。
資本関係を発生させ、再生産し、さらには解体しつつ未来の自由の国の萌芽を大量化するものこそが、社会的労働の生産力それ自体であり、やがて普遍化する直接的物質的労働の駆逐なのです。
by バッジ@ネオ・トロツキスト (2017-11-30 18:37) 

バッジ@ネオ・トロツキスト

「資本主義社会である限り,資本によって搾取され続ける」のではなく、因果関係的な発生連関は「剰余価値の搾取が資本関係を生産・再生産している」のです。「はじめに資本ありき」ではない!
資本と剰余価値生産の関係は、根源的には後者が前者を生産・再生産しているということ。

つまり、ロボットとAIによる「完全自動工場」のような究極的な製造業現場では、もはや直接的物質的労働が存在しませんし、僅かに監視労働のような非物質的労働が残る場合も、そういう監視労働はもはや全体労働者の一分枝ではありませんから、通説的理解によっても価値形成労働とは看做せません。(「有用効果生産説」に立って「何でも価値形成労働」説を主張する生産的労働論修正派も価値形成性を言い張れないことは、上記の監視労働には社会的必要労働時間や生産される使用価値量の不存在などから明白です)

そう、価値も剰余価値も生産されない生産現場では、もはや資本関係は死滅しているのです。マルクスが『要綱』資本章で「直接的形態での労働が富の偉大な源泉であることを止めてしまえば、労働時間は富の尺度であることをやめ、・・・・・交換価値は使用価値の尺度であることをやめ・・・」等々と描写していた未来展望が、資本のシステムの中で既に萌芽的に現実化してきている。
このような、生産過程への科学の充用によるものと、もうひとつはマルクスが展望し切れなかった非製造業分野への大きな就労シフト。
なお、「自由の国」の物質的生産と、必要と窮乏の克服である必然の国の物質的生産では、性格が全く異なるのです。
前者では、アルタミラ洞窟壁画と逆の局面が登場する。「趣味」とも言うべき自由な物質的生産は、原始人が必要生産である狩猟労働の剰余労働部分として狩猟総括活動から発展させた芸術(非物質的生産)を逆の比重関係で含むものとなる。
つまり、物質的生産における必用と窮乏の帰結という本源的性格は失われ、窮乏回避動機型の本源的必要「労働」はある意味で駆逐される。
by バッジ@ネオ・トロツキスト (2017-12-01 00:36) 

 バッジ@ネオ・トロツキスト

この項の最後にひとこと。

資本関係が成立するためには、剰余価値部分の収奪が前提になるのであって、このことは更に、労働に価値形成性、それも定量的・計量可能的な価値形成性が前提的に存在するということです。

つまり、価値非形成的な労働や価値量計測不能的な労働から資本関係は最生産され得ない、ということ。
資本関係は、価値非形成的な商業労働のような労働だけを土台としては存続出来ないのです。
by バッジ@ネオ・トロツキスト (2017-12-01 01:00) 

バッジ@ネオ・トロツキスト

オマケで面白いものをご紹介します。

今日の資本主義社会では、頭脳労働の一部を対象的労働手段に置き換えるITやAIの研究と共に、物質的直接的肉体的労働をほぼ全面的に対象的労働手段に置き換えるためのロボット開発や、非物質的生産部門の労働をロボットに代行させる技術がかなり進歩してきています。
製造業はもとより、福祉・対人サービス部門や科学研究、芸術創造の一部までもがロボットに置き換え可能になり始めている。

https://www.youtube.com/watch?v=IRW8zXHaBes

(これ ↑ は、狭義の「産業用ロボット」ではないでしょう。いわゆる「協働型ロボット」は、流通や医療・福祉、対人サービス分野全般への導入を目的として開発されています)

こういうの ↓ もある。

https://www.youtube.com/watch?v=i3zrfIKkkAQ

単純反復作業をも求められる科学研究室などでは、こういうロボットの開発が進んでいます。

マルクスが展望した「真に自由な生産」(『学説史』)のみに人類が没頭できるような社会の物質的前提条件は、既に資本主義の内部で出来上がりつつあるのです。
by バッジ@ネオ・トロツキスト (2017-12-01 10:01) 

バッジ@ネオ・トロツキスト

補足の補足。

人間は、どんな時代になっても飲みかつ喰らうような物質的生活(自然と人間との物質代謝)を土台にして生き、暮らしていかなければなりませんから、その点では「物質代謝の制御」は不可欠です。だから人間労働も誕生した。

しかし、この、空腹や窮乏、必要などに迫られて行う物質的生活の生産(必然の国)は、必ずしも人間の物質的労働によって満たされることを意味しません。生活手段、生産手段の獲得・創出それ自体は、ロボットでも出来る。

しかし、マルクスが言う「真に生産的な労働」や「真に自由な生産」は、ロボットでもITやAIでも出来ないでしょう。それらには創造性も、創造性を産み出す剰余労働も、さらには、自由な労働を自らの延長部分として産み出した生活も存在しないからです。

未来社会では、物質的生産たる労働は、日曜大工や趣味の工作のように、窮乏や必要から解放されて存在するでしょう。
また、科学や芸術のような、人類史初期に物質的労働から派生・分離・独立した非物質的生産も、物質的生産へ回帰し再統一されて行く。

だいたい、そういうことではないでしょうか。
by バッジ@ネオ・トロツキスト (2017-12-06 11:15) 

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