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「冷戦とアメリカの科学」最終章の抜粋 [仕事とその周辺]

当ブログで再三紹介しているSW Leslie氏の,"The Cold War and American Science" という本ですが(例えばこの記事),全部の粗訳が終わりました.今回は,その最終章の冒頭2ページの訳と,残りの部分の抜粋を紹介します.

img856ph3h.jpg9章 審判の日々:3月4日と4月3日

MITの教員メンバーは,1969年1月にストライキを呼びかけた.MIT自身へのストライキではなく,むしろ「米国における生活の中の科学と技術のいまの役割に関連した問題と危険について公開の討論」を誘発することをめざしたシンボリックな意志表示であった.いつものように仕事をする代わりに,同僚や学生たちに科学の利用や悪用について,その1日,深く考えることを強く勧めた.3名の学科長を含む,科学者と工学者である48名の教員が「3月4日声明」に署名した.(右の写真のキャプション:ケンプリッジ警察が反戦活動家を排除するのを眺める機器研究所の職員.警察はデモ隊をすぐに追い払ったが,シット・イン,ティーチ・インや同様のイベントは,MITとそれに率いられる軍事資金による研究に国民的関心を集めた.)

行動への彼らの呼びかけの背景には,提案された弾道弾迎撃ミサイルシステムやベトナム戦争などによって強められた米国の科学の軍事化に対する増大する不安があった.「3月4日声明」は,彼ら自身と同僚に呼びかけ,現在の軍事技術に重点が置かれた応用研究から緊急な環境問題や社会問題の解決する研究に向けることを,また,学生たちに彼等自身が科学・技術の利益を人類にもたらすよう専心し,破壊兵器システムの構築に参加する前にここで提起された議論を吟味するよう求めた.

3月4日について新聞は,「科学者も一般市民のように行動し始めた」ことに対して主催者たちを賞賛した.スタンフォードを含む20〜30の他の大学でも同様の計画を発表した.

おおよそ1400名の人々がクレッジ講堂に押し寄せ,軍事からの転換(military conversion)や軍備制限,大学—政府関係,知識人の責任などについてのパネル討論を聞いた.「私たちはMITを攻撃しようとしているのではない.私たちが心配していることは,国の才能や資源の悪用についてであり,そして学生たちのことも心配しているのだ」と主催者は説明した.言語学者のノーム・チョムスキーは「大学は二流となることで,国防機関の契約メンバーとなり,戦争で使用する機械の知的提唱者および設計者としての関与を増すことができる」と発言した.

3月4日は,大学における軍事の進出や公共の利益についての全米の議論を引き起こした.そして抗議デモ行進や座り込み,討論集会や特別学部調査(special faculty investigations),機密研究の制限,民事研究への転換への呼びかけなどを呼び起こし,2,3の重要な大学研究所の分離にまで至ることとなった.しかし結局,これらの善意の発言や学部理事会の決議は,30年の間に強力な後援組織を獲得していた軍・防衛産業・大学の鉄の三角形を打ち破るには十分ではなかった.

(以下,抜粋)
東のペンタゴン
1969年の春には,批評家たちはMITを「ペンタゴン・イースト」あるいは「チャールズ川のペンタゴン」と呼んでいた.1968年財政に関して軍事研究契約で1億1900万ドルを獲得して,MITは防衛契約で大学として第一位となり,第二位のジョンズ・ホップキンズ大学の2倍,第四位のスタンフォード大学の7倍以上であった.MITにはいくらかの抗議行動がなされてきたが,防衛分析研究所との大学の連携に関して学生が警察とつばぜり合いをしたコロンビア大学や予備役将校訓練過程プログラムに抗議する学生が警察によって立ち退かされるまで大学の建物を占拠したハーバード大学に比較すれば,MITは静かな方であった.

西のペンタゴン
西のペンタゴンと呼ばれたスタンフォードでは,3月4日は比較的静かな日であった.スタンフォードでの3月4日の儀式は,軍産複合体へのたいした妨げではなかった.しかし,それは長い間行われてきた科学政策立案の疑問に対して大きくて公衆の興味を最初に注入することとなった.大きな保守的な教員組織と学生自治会のあるスタンフォードは反戦運動の初期には無活動状態にあった.一方,対岸のライバル校であるカリフォルニア大学バークレー校 (UCS) は学生運動と同義であったが,スタンフォードは,学生の政治活動よりは友愛会の集まりでよく知られた堅実で保守的なキャンパスであった.

1969年4月3日,大規模なタウンミーティングの中で,スタンフォードの反戦運動のさまざまな分派は合同して「4月3日連合」として再建されることになった.彼らの要求は,大学の理事たちがSRI(*)についてより厳格なガイドラインを作り,大学やSRIでの機密扱いの研究をすべて終わらせ,化学戦争や対ゲリラ戦の研究を,機密扱いであろうとなかろうとすべて終わらせ,そして軍事研究問題についての公開の理事会を開くことなど広範なものであった.

スタンフォードでは,4月18日の大規模な屋外集会でクライマックスを迎えた.そこでは,8000名が集まり機密研究やスタンフォード・SRI関係についての道徳上および実際上のジレンマを議論した.彼らは,大学とSRIで行われている研究の特性にキャンパスの注目を向けるために4月3日運動をほめたたえ,4月22日を「憂慮の日」として授業を中止することを圧倒的に投票で決めた.

軍の復権
MITの「3月4日声明」やスタンフォードの「4月3日連合」に象徴される反戦運動の機運の中で,1970年代には大学の科学・工学への国防総省支出は減少することになる.しかし,1980年代,MITとスタンフォードは,大学の科学・工学への国防総省支出の国家的復活を導くことになる.1983年には総国家R&D支出の18%にまで増加させた.MITは,大学の防衛研究契約リストのトップの位置を占めて,1983年には5300万ドルの学内防衛研究契約を得た.スタンフォードは,足並みをそろえて1983年に3200万ドルの学内防衛研究契約を得た.これは国からの研究契約の総額の23%であった.

国防総省・大学フォーラムが1983年にペンタゴンと米国高等教育の最強勢力の間で,ベトナム戦争のすぐあとに失効していた防衛機関とトップ大学の間の関係を再建するために創設された.国防総省・大学フォーラムと関連した努力のおかげで,主に商業上重要であると一般には考えられていたハイテク技術分野にも軍事の進出が感じられるようになった.例えば,スタンフォードの統合システムセンターは,マイクロエレクトロニクス会社の合弁会社からの総計1500万ドルの担保で創立され,超大規模集積回路(LSI)の商業市場を日本から奪い返すことを目指してDARPAから創業開始基金に900万ドルを受けとった.超高速LSIや計算機科学における追加のイニシアティブは国防総省の参加をかなりの程度当てにされている.

初期のMITやスタンフォードを見習おうとする意識的な努力の中で,カーネギー・メロン大学やジョージア工科大学のように積極的で熱心なところは,トップ大学になるために軍事資金への方向に向かった.ジョージア工科大学は,テルマンの弟子ジョセフ・ペティットをスタンフォードから招いて,全国的に著名な大学に引き上げようとした.ジョセフ・ペティットは,スタンフォードのイメージでジョージア工科大学を大幅に改造し,1987年には,ジョージア工科大学は一時的にMITを超えて,大学での科学および工学に関する防衛基金の最大の受取者となった.カーネギー・メロン大学は防衛資金との関連の深い計算機科学と人工知能において強力な大学となった.空軍が資金提供しているソフトウェア工学研究所とウェスチンハウス,DARPAおよびONRが共同資金提供しているロボット工学研究所は,この意味で未来への一瞥であると同時に過去への復帰を表している.ペンシルバニア州立大学,南カリフォルニア大学,テキサス大学も同様に防衛研究契約を増やす戦略を取った.

戦後の成り行きは,軍事が結局は米国の科学と工学を分割払い方式で手に入れることになるというコーネル大学の物理学者フィリップ・モリソンの心配した通りになった.しかし,国のハイテク技術政策をペンタゴンに譲渡したコストは,いったいどれ程であろうか.誰も今は冷戦の開始時にまで戻ることはできないし,また,取らなかった道筋をたどることもできない.ほかの想定や優先順位に導かれた科学と工学が私たちを何処に導くのかを,誰も自信を持って断言することはできない.誰も1990年代初期の経済的困難についての一定の責任を,軍が産業と大学のための産業政策を設定しようとしなかったことに負わせることはできない.

これまで長い間,米国のハイテク政策の設計者は,ペンタゴンにとって良いことは米国のビジネスにとっても米国の大学にとっても良いことであると決めてかかっていた.軍産学複合体の利益は,ハイセンスの兵器システムの一連のシリーズに示されている.そのような兵器を作ろうとする考え方で支配されている米国の科学や工学に費用がかかることは当然である.そのような考え方から脱するには,時間と決断力,そして特にお金が必要である.しかし,科学と工学を価値ある国家的議題のために使い,長年の懸案だった「平和の配当」を生かして,米国が政治上および道徳上の意志を集めることが可能なら,民間の科学や工学の基盤を再建するために国は十分な基金を再配分することを考えるべきである.
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